ちゃぶ台

えんぞうです。書いた小説など

U・屠蘇・バッカスの姫

L…B…の漫画の上手さと某事件で打ちのめされたときの感情が悪い化学反応を起こしたり、めちゃくちゃ好きなアニメータにブロックされててすげえ落ち込んだりしながら就寝、嘘みたいにいい寝覚めで迎えた月曜日。アルコール燃料をチビチビ入れながらほとんどの時間をかぐコン2原稿に費やした。月曜零時時点で進捗は0 %で、いやさすがに焦りました。

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どういう話にするかは練っていたけど本文が真っ白、書き溜めていたパーツも全ボツだったときは絶望しましたが、最大4000字の掌編だったということが幸いしてなんとか書きあがりました。例のごとく推敲は十分でないので「大事な機会を奪いやがって」と怒られ、しょっ引かれてしまう可能性があります。

ここで自白するバカがよ。

 

書いた内容はルール上書けないので前回書いたやつを貼ります。

嬉しいことに選外佳作として紹介いただけた作品で、自慢の子です。2の話もこんな感じだったりこんな感じじゃなかったりします。

 

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竜そばを観にいきましたので感想を書きます。ネタバレ有です。

あんまりいい映画ではなかったですが、期待していた部分は90点くらいあったので総じて満足です。

私が期待していたのは次の三つでした。

1.背景美術、ひいては『U』世界の描写

2.曲

3.空飛ぶクジラ

 

1について。

PVで分かっていたことでしたが、背景美術はかなりいい。『U』世界 田舎の学校の閉塞感 SNS専用のデカいモニタを置いたデカい部屋。わざわざ大きなスクリーンで観る甲斐はあったかな、と思います。

ただ、『U』世界パートが映像的にあんまり面白くないのが残念でした。ゲーム画面だからゲーム的に、というのはそうかなと思うのですが、良かったと思えたのはベルが人魚たちに城へと誘われたシーンだけで、終盤のキメキメ歌唱パートでもあんまり気持ちが乗らなかったな……というのは惜しい部分です。これはシナリオの問題もあるでしょうが……。

画面的には現実パートの方が断然面白くて、ならこっちのほう増やせばいいのになと思っちゃいました。美女と野獣をやりたいという話でしたが、この要素ない方がよかったのではとすら感じています。

 

2について。

自分の中で「曲が良かったのでこの映画もまあ100点でしょう」みたいな感じになっています。

特に好きなのは『U』と『歌よ』です。冒頭ワクワクしたね……

でもラスト、「(この話を締めるのは)あの曲しかない」といって鈴(中村佳穂)の歌う『はなればなれの君へ』のEDに入るのですが、このしっとりとした曲調が本当にこの映画の締めとしてふさわしいのかは少し疑問でした。メドレーでよかったのでは?

 

3について。

デカくてしかもたくさんスピーカー担いでて良かった~途中作画のクジラも入ってたけどあのゆったりとした尾の振り方がいいですね。歌で竜を探すベルとクジラの反響定位がつながってたのも好ポイント。ていうかもっと出してくれ。

 

惜しかったところについて。

まずは先も挙げた『U』世界の描写がそこまで魅力的でないこと。これは竜とのロマンスに割き過ぎかなというのと、悪のインターネットを描くぞという気持ちが強すぎてフラットに『U』を考えられていないところがあったかなと思います。強い背景美術だけで引っ張っていくという描き方ではさすがに通用せず、ただ単に小物というだけではない、より奥行きのある世界を観たかった……

あとはシナリオです。

鈴の心情を追うのが結構難しいと感じて、というのも現実パートではほとんど思春期の恋愛を描いているので『U』でのベルの竜に対する母性が見えにくいんですよね。

もちろんこれは意図的にそうしており、終盤の歌唱パートで「顔も知らない竜を気に掛けるベル」と「他の子を命がけで救助する母」が重なった時に分かるようになっているのですが、その後も恋愛の話をしたりするので結局何なんだよとモヤモヤしてしまいました。

このシナリオで動いているキャラクターたちの言動にも疑問を覚えることが多かったです。鈴を一人向かわせる大人たちがやんややんやと言われていますが、一番気になったのはしのぶくんでした。彼については鈴の幼馴染であり、イケメンであるという以上の描写がされることがなく、終盤鈴の後方から「SNSで顔を出して歌うしかない」と残酷なことをいうものだから、なんだコイツ以外に思うことがない。しかもラストで「守る役目が終わったので肩の荷が下りた、心置きなく鈴と付き合える」と言い出すのも気持ちが悪く、その気持ち悪さを抱えたままEDに突入するので後味がよくありません。

「(この映画の締めくくりには)あの曲しかないでしょ」

「あいたい はなればなれの君へ~♪」

 一体誰目線の曲なんでしょうか。私は曲を読み解くのが苦手なのでなぜこれが締めくくりにふさわしいのかまったくわかりませんでした。いや、一曲選べというならこれでしょうけど……。

 

以上、竜そばの雑感でした。

期待通り楽しめたし、予想通り合わなかったという映画で、不思議な感じです。いやそんな不思議でもないです。

 

 

酒飲んでアニメ見て感情全部消して寝る。ブロックされたのが本当に辛いので。

 

(終)

 

竜そばを見ながらインターネットを通じて誰かを救うという話で最近特によかった『ブルーリフレクション/澪』の第五話を思い出しました。

竜そば顔の見えないインターネットで人を救うのは個人と個人の想い!という結論だった気がしますが、それだったら普通にブルリフ五話の方がいいなと思いました。竜そばを観た方は是非ブルリフ澪(3~5話)を観てください。

ほんとに、(終)

アンチ物語って、なに?

最近、私ってアンチ物語なのかもと思うことが増えてきている、ように感じる。

 

物語そのものの美しさ素晴らしさを感じるときに(もしくは、ある作品の物語が褒められているときに)、特にそう思う。なんなんだろう。

なんなんだろうといっても僕の中で大体見当はついていて、シーンごとの良さばかりに注目しているからだ。

こんなに美しいものを物語という枠にハメやがってよという気持ちがあるんだろう。

 

個々のシーンが宝石だとしたら、美しい物語はそれらを最も美しい形で配置し、装飾品としての芸術性を高めるものだ。だからこの気持ちはあんまり正しくないとは思う。

「宝石は宝石の、原石は原石の美しさがあるのは確かだし、より大きい価値で磨かれない良さがあってもいいだろ」

こういう声も(僕の中に)ある。良さがあってもいいが、良い物語がこれらの価値を減ずることはまずない。フィクション全てが作為の産物と言ってもよいからである(少なくとも発声に限って言えば偶然、たまたま、奇跡的というものはない気がする)(ノンフィクションですら人によって語られてしまう)。

 

だからこれは好みの話だ。

 

好みの話なので好き勝手話すんですけど、やはり美しいシーンは物語から外して考えたいな。

あまりに強いシーン単体が脳に入ってきたとき、ぼくを巻き込んで像を結んで立体する。そういうときって一番フィクションがフィクションでないときだから。

こういうことをいっておきながら、俺はある最強のシーンを見せるためだけに他のシーンがあるような作品が好きだ。シーン単体で評価していないじゃん。

 

え、じゃあこのアンチ物語みたいな気持ちなんなんだろう……単に逆張りかな……(最悪のオチ)

 

何もかもがギリギリすぎる

何もかもがギリギリすぎる。先延ばしにできることは先延ばしにするという厄介な性格のせい。おれは悪くない。

 

小さな小説コンテストの話です。

 

締切日は六月六日の二十三時五十九分。今日は先輩に(というか一人は歳は一緒だし誕生日で言えばおれの方が古い)寿司をおごってもらい、罪悪感とか幸福感とか満腹感とかを味わうべきだったのに小説を書いていた。馬鹿が代。

それだけじゃなくて、昨日はスタアライトされてきたし、その後シドニアの最後を見届けてきたし、実験したしでそういうことやってる場合じゃないだろみたいなスケジュールの組み方をしていて、何なら帰ってからアニメ実況もしている。阿呆が代。

 

まあそんなこんなでもしっかり書き上げるのが俺のいいところですが、ロクな推敲もせずお出ししてるので偉さポイントはギャンギャン引かれていくし今マイナスです。汚文をインターネットに流すな。というのは今更じゃないか?

 

www.pixiv.net

 

読まなくてもいいし読んでもいいです。ほんとは読まなくていいです。

 

スタアライト良かった~~~~~~~~~~何をおいても見た方がイイらしいね。劇場で。TV観てない人はTVからですよ。それだけの価値はある気がするし素直に全部見て「時間を無駄にした!」と文句をいわれてもわたしは知らん。好きに恨んでください。

ワイルドスクリ―――――――――――――――――――ンバロック

二時間のうち半分くらいあるレヴューがマジで最高で、あれを浴びることが文化的生活の条件になりうるよ。お気に入りは全部です。全部いい。

wi(l)d-screen baroque

 

ポンポさんもめちゃくちゃ良かったです。アニメアニメしい画面で創作に魂燃やすぜ~ってやられたのでウっと吐き気がした。嫌いなタイプの良さでした。

 

シドニアは~……すごすぎてずっと笑ってました。艦長がドエロイ色気かまして歌い始めたのすごかったね。あとなんか長道とツムギのいちゃいちゃデートシーンも異常にラブラブしててすごかった。こういうシーン挙げてったらキリがないんですけど、原作もこういう話なんですか?と思って調べたらわりとそうらしいのでびっくりした。弐瓶勉作品いっぱい読むべきかもしれん。

 

(終)

 

 

ハッピーバースデイ反重連!

ハッピーバースデイ!反‐重力連合!

 

ということで創刊号を無事手に入れることが出来、ぺろっと読んだので記念(?)に感想を残しておきたいと思います。こういう形にするつもりはなかったんですが、Twitterに流すと書いた人の目に入っちゃって恥ずかしいのでここで。書かなきゃいいじゃん。それはそうなんですが……。

 

booth.pm

読んでね~~

 

 

 

 

・『灰の園』脊戸融

設定の説明で読ませるのがすげえ~と思いつつ、読んでる最中は本来ならもっと長かったのかなとも思ったりした。読み終わってみるとちょうどいいサイズ感だったようにも思えたので人の(というか俺の)感性って信用ならない。機械の機能や製造目的ってそれ自体がストーリーたりうるといえばそうだし、そこに自律機械の心が伴うと設定説明に血も通う。酉島伝法っぽい挿絵もカッコいい。

 

・『箱たちと彼』赤草露瀬

深夜特急っぽい文体で箱のいる世界を主観的に書いており、その下段、注釈によりデータも交えた事実を読ませることで本文の視点の偏りが明らかになって面白い。そもそも箱に人の手足を生やすっていう設定が笑える。箱の家族を想像してるとこの下で「確認されてない」「存在しない」「存在しない」を並べて偏見を指してるところが特に好き。なんで箱が、こんなことをするんだ!

 

・『堕ちていく天国』庭幸千

少女のみで構成された世界と少女原子転換炉、本アンソロのなかでも最強の組み合わせかと思うほどの無敵感。ビジュアルがめっちゃかっこよさそうなのでアニメとか漫画で見ると最高そう。ユオが登っていくことで天国が堕とされていくっていうのも綺麗。BLAME?

 BLAMEだった。

 

・『ボーンズ、オートマティック』巨大建造

文字を骨に見立てていて、本文自体が骨(文字)でできた作品世界となるのがいい。文字そのものの形から得られる視覚的な情報。モチーフ、というか個々の文字、「骨」「墓」「。(句点)」「月」などが強固に結びついて巨大なイメージが組み立てられる感覚があり、かっちょいいね~。
タウタにぼきぼきに折られちゃったクラスメイトのいじめっ子たちが面白くて好き。

 

・『交差点』xcloche

オモシロ話が語り手の今の状況に交差する…という構成。各章が一点で交わるオチが気持ちいい。ふたつめ、目の退化した地底人部族の地下闘技のお話はサクッとミステリ仕立てになっていて単体で満足感がある。フィクションを光に正気を保とうとする語り手にちょっとホロっと来たりもした。

 

以上、二号も楽しみです。

エヴァ~ネヴァ~(ネタバレ)

むしろ初日以外あんまり時間ないな、ということに気付いてからの行動は早かった。とりあえずopenESを埋められるだけ埋めて家を出て近所の映画館に向かった。最前列しか空いてないIMAXか、席に余裕がある通常上映か。しばらく迷ったがせっかくなのでIMAXで観ることにした。溜まってたポイントを消費したのでチケット代は500円。最近は金欠気味だったので助かるな~と思いながら浮いたお金をパンフに使う。ここ数回、欲しいパンフを売り切れで買えずにいたので念には念を入れて、1500円。普通に高えな、とリュックにしまって本屋で時間を潰した。

最前列にしたのは悪くなかったと思う。視界に入りきらないスクリーンで観る映像は圧倒されるだろうなという予感とともにうるさい広告をみる。IMAXの放映前広告初めて見たけどあれめちゃくちゃ邪魔だな。音が映像が云々説明してるけどおまえが没入感を阻害してるんだよ!って言いたかったのを今思い出した。シンエヴァって映画自体にはかなり満足した。

 

実はというか、エヴァにそこまで強い思い入れはない。みんなが観てるから観たくらいの作品。だからシンエヴァをみて「エヴァ終わった~」としみじみ思うわけがない……と思ってたんだけど作品自体に終わり感が満ちててこっちも終わったんだなという気になってきている。お疲れ様でした。エヴァファンの方々をみる限り満足そうだったのは素直に良かった。というか、あんまりファンじゃない俺ですら腑に落ちてるのを思うと相当分かりやすかったのだなと思う。報われた、というのがしっくりくるか。おれはそこまでファンじゃないので察することしか出来ない……。

 

 

 

以下、気に入ったとこ(ネタバレ)。

 

 

 

・前半のフォールアウト4パートが日常系萌えアニメだったので終始ニコニコしていて、村の穏やかな生活に触れながら感性を具体化していく仮称綾波ちゃんなんかは近くに座っていた(おそらくアスカ派であろう)オタクに「今回の綾波は可愛かったね」と言わしめるほどの威力だった。ずっといじいじしてるシンジくんと、それにイライラしながら世話を焼くアスカも対比としておかれながら馴染んでいたし、「人の営み」のデカさに泣きたくなるのは仕方ないだろ。「ここで生きてはいけないけど、ここは好き」仮称綾波~(涙)

ミサトさんが我が子に恋人の名前つけてたところ。

・ヴンダー大活躍の艦隊戦。クジラみたいなフォルムが好きだったんだけどL結界境界面潜航のところで「あこれ特殊潜航艦なんだ」と分かってとんでもなく気に入ってしまった。「火力で負けても主機はこっちが上だ!」で振り切って急速潜航、体当たりを仕掛けるのも好物過ぎて、この辺りでテンションがおかしくなってたと思う。リアリティとイマジナリの行ったり来たり、虚実皮膜を介した運動があったのも嬉しい。リツコさんの「二番艦、完成していたのね…」「さすが冬月」でめちゃくちゃ笑ってた。

・心の壁としてのATフィールド。二号機が十三号機を恐れて~のとこそんなことあるんだと思ってみてたらゲンドウがシンジと向き合うことを恐れてATフィールド発動させててここはホントに危なかった。家だったら爆笑してた。

・北上ミドリと鈴原サクラ。今回ツッコミ役として出演した北上ミドリ(エヴァにそんな人出るんだというのも驚きがあった)が変なこと起きてるときに「やっぱ変ですよ!」ってツッコんでくれて安心して笑ってた(流石にわざとやってるって信じたい)。鈴原サクラの方はヤンデレみたいなこといってて笑った。

・イマジナリ親子喧嘩

・アスカNTRNTRっていうか……まあNTR。近くに座ってた(おそらくアスカ派であろう)オタク、大丈夫かな。

・新しい槍が天沼矛だったのかっこよくない?

・最後のエヴァンゲリオン、8+9+10+11+12?号機。俺の1番好きなエヴァが八号機だったんですけど、ここまで大活躍させてくれるとたまんないよね。加えてマリ派なので最後マリが迎えに来るとこで堪えきれずに泣いた。原撮のセルフパロとかは正直どうでもよかったな。

宇多田ヒカルよすぎだろ~……

 

と、まあかなり楽しい映画になってたんだけど、改めてこんな僕好みのアニメだったっけと驚いてしまう。正直、ゲンドウやカヲルが報われたりミサトさんがシンジ君かばったりしてたところはいい話だなとは思っているものの、自分にとってそこまで重要ではなかったのでちょっと冗長だなと感じてた部分もあったかも。

予告で気になってたチープなCGも意味があったけど、好きと言うほどではなかったな。その後でミサト宅や教室で槍突き合わせるのも面白かったけどそれでいいのか、とは思った。

 

いや~とにかく楽しかったな。エヴァファンでないばかりにエンタメとして観てしまうのはかなり申し訳ない気もするけど、この楽しい気持ちに嘘はつきたくない。エヴァって以前にシンエヴァって映画が好きです。

 

 

そういえば以前BFC2で書いた原稿を見せたら逆エバじゃんって笑われたの思い出して読んでたのですが、なんかちょっとシンに似てて笑ってしまった。

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最初らへんの情景はまんまエバをイメージしてたのでそれっぽくなるのもしかたないかもしれない。

蓮池の下

 その日は予報では雨といっていたから、昼ご飯に雨食を食べることにした。すると外はどしゃぶりで、好みじゃないけどそういえばしばらく食べていないな、とざると菜箸、ボウルを持って縁側に出る。柱を片手でしっかりと掴んで身を乗り出し、ボウルとざるを重ねたものを出来るだけ庭の方へやる。どしゃぶりの日はごろっとした食感を大事にしたいから、ざるは大きく早く揺する。ざるにはつなぎのグラニュー糖がまぶしてあり、ざるをくぐらせた大きい雨粒は下のボウルにころころと落ちていく。半分くらいまで貯めてから家の中に入り、大きいお皿に移してきな粉を塗す。どしゃぶりは歯ごたえはあるけれど、よい食感かといえばそうではないので、こうやって甘味にして誤魔化すのだ。見た目はくず餅のようではあるけれどくず餅の方が圧倒的に美味しい。というか、原料が水だし。なので甘食は早めに食べてしまうのがいい。べちょべちょになってしまい、さらさらしとしとといった食感がなくなってしまう。

 早速箸で一つをつまみあげると、不連続な太さで繋がった透明な形が向こうの景色を歪めていた。そうだった、どしゃぶりはあまり美味しくはないのだ、ということを実感として思い出す。それをひょいと放り込むと、口の中に雨が降りはじめた。

 雨食の持つ一番強い情報は雨の匂いだ。ところが雨に匂いはないらしい。雨食を食べたときに感じるそれは記憶が誘起させるものであって、土壌のバクテリアが出すものでも、溶け込んだ化学物質の出すものでもない。この匂いは、と母に聞くと、蓮の香りだよと教えてくれた。本当の蓮の匂いなんて嗅いだことがないから、わたしにとっては雨食の匂いだったし、母の匂いでもあった。

 口いっぱいに広がる雨の匂い。雨雲のような閉塞感を覚え、しばらく口の中で転がしたあと、飲み込む。途端に晴れやかな気分になる。二口、三口と続けて口に放る。今度はゆっくり雨の味を楽しむ。確かに無味ではなく、普通の水の味でもなくて、具体的な言葉にするのは難しい。辛くないから甘い、というような甘みがあるような気がする。匂いが甘いのか、雨食の独特の食感が効いているのか。しとしとだったり、ザアザアだったりとそのときの雨模様が再現され目の前の映像はさらに立体的になる。ほどほどに満足したわたしは空の食器を置いたままに横になり、目を閉じて雨が止むのを待つ。

 母のことを思い出していた。雨粒は粒なのに、どうして雨食は麺みたいになるんだろう。そう母に聞いても困ったように笑って首をかしげていた。「なんでだろうね」

「でもこうして見ている雨は糸みたいだよね」雨の美味しい時間を切り取っているからなのかもしれない。それだったらこういう形になるかも。よほど自信があるのか、母は真面目な顔で思いつきを話していた。

「それに、本当は糸の形をしているのかもしれないし」

 母は雨食を作るのがとても得意で、どんな雨でも細くて長い雨食を作ってみせた。ずいぶんのんびりした人だったので、どしゃぶりの残像が普通の人より長く見えていたのかもしれない。

 そんな母も天に上ってしまった。陽の差した雨空の日だった。母がいなくなってからわたしも沢山の雨食をこさえたけれど、母に追いつけた気がしない。確かめようにも、最後の母の雨食は随分前の記憶だった。

 長い昼寝から起きると日がすっかり落ちていた。風邪を引いてしまったのか身体が熱っぽく、重い。わたしはふらふらと寝床に向かいまた眠りについた。それからどしゃぶりが何日か続き、その間丸まりながらどろりと溶けたような意識が固まるのを待っていた。

 強い雨の匂いで目が覚めた。身体はまだ熱っぽいものの、とても調子が良い。外から明るい光が差しており、わたしは導かれるように縁側にいくとまだ雨は降っている。柔らかくて、細くて、長い雨。母が最後に作った雨食のような雨だ。わたしはこの更科の感じが一番好きだった。柔らかさを確かめようと雨に触れると、するりとした抵抗がある。手には雨食の束が光りながら流れている。本当に一本の糸みたいだった。切り取られることもないくらい長い目で見ているのかな。ぼおっと熱を持った頭で見上げると、雨雲から無数の糸が垂れ下がっていた。あまぐものいと。綺麗な一本になっているそれを引っ張ってみる。割と丈夫。ぶら下がっても抜ける気配もないので一丁登ってみることにした。

 ピアノ線のように細いけれど、雨は柔らかく、食い込む痛みはない。普段の出不精なわたしでは考えられないくらいするすると上っていくことが出来た。体中がむずむずと熱をもっていて、不思議と力が湧いてくるからどこまでも上って行けそうな気がした。

 中程まで来ると、好い匂いが強くなってきた。雨食の匂い。上って行くごとにその匂いは濃くなっていく。わたしは浸透圧が働いているみたいに上へ上へと吸い寄せられ、ついに目の前まで雨雲が迫るほどになると匂いは掴めそうなほど辺りに濃くたちこめていて、すぐ向こうに母がいる予感がした。頭が雨雲に入って一瞬視界が塞がれて、口の中に水が流れ込んできた。体内が強く匂いに満たされて息ができない。溺れてしまうのではと慌てたが、落ち着いて呼吸してみるとそれは水ではなく、とても濃い匂いなのだと分かった。

 密度の濃い、ねっとりとした匂いの中で浮力を得たわたしの身体は界面方向に向かっていき、密度の急峻を迎えてぷかりとそこに留まる。薄く靄の這った上に蓮の花がたくさん浮かんでいて、その向こうにわたしを待つ姿があった。

登校日誌

[n]

 光学系に大きな刺激があって目が覚めたが、観測できる範囲に天体はなかった。なんだったんだろう、とにかく変な波形だ。メロディのような。妹を起こそうと試みるも寝言で返事すらしてくれない。諦めて体内時計を確認すると、母星を発ってからもうかなりの時間が過ぎていた。他星系からのメッセージに入っていた入学案内を頼りに恒星間登校の途中、これでもまだ通学路全体の4分の1にも満たないらしく、どうやって退屈を過ごそうかと悩んでいる。親には電力を無駄にしないよう、極力スリープモードにしておけと言われていたけど、そんなに長い間寝ているというのも疲れるものだ。こうしてn度寝から目覚める度に、まずは身体の点検をした。軽く伸びをしてみると、よく関節が動きにくくなっているから、そういうときはメンテナンスを行う。今回は作業肢と触角のあたりにぎこちなさがあり、腹部格納庫から修理班機を出し、ついでに時間割解読班も起動させて後は彼らに任せた。もう太陽の光は拾うことができない。入学案内によるとしっかり学校には向かっているみたいだが、自分で自分の位置を知ることができないためにどうにも不安だ。まあ、どうせエネルギーは残り少ないのだし、計算してみてもとうとう目的地にたどり着きませんでしたという結果がまっているようだったので最近はどうでもよくなっていた。妹が起きないことを確認して遺書代わりに付けている日記を開く。n-1度寝から目覚めた時につけた記録を読み返し、連続した自分を意識しながらn回目の覚醒時の記録を始めた。はじめの頃の自分からどれくらい変わっているんだろうかと過去の記録を遡ってみると、好きな光がだんだん長波長に変わっていた。そのまま記録を参照していき致命的な矛盾がないかざっと確認する。いくつか許容しがたい欠損が見つかったけれど、何かが無くなっているだけで矛盾しているわけではないし、別にいいか、と筆をおいて周囲に意識を向けた。あの変な光はあれからずっと検知されているままだったからだ。周囲には発生源となりそうなものはなく、とりあえず波源を探ってみると、どうやら僕らの目的地の方から来ている光らしい。単なる偶然かそれとも――

 

 ――システムが再起動しました。

 パッケージ化された光がゴツンと感知された瞬間、何かのファイルのインストールが始まっていた。恐ろしい速さで書き加えられたファイルは、時間割の解読を一瞬で終わらせた。つまり、翻訳ソフトが入っていたのである。入学案内を開いてみると、なるほどすらすら読むことが出来るようになっていて、それだけでなく先程鳴り続けていた光が始業のチャイムだということも知ってしまった。留学早々遅刻してしまった事実に、学校に行くことがひどく憂鬱になる。翻訳ソフトを手に入れたところで電力が増えるわけでもないし、このまま予習で使いきってしまうか。どうせ戻れないし、結局遅刻しているわけだし。まずは「有効厚み操作」「天国回転」「無」「卵」などの単位をとりあえず触ってみることにする。

 

 

[n-2^13]

 今日はご機嫌な気分だったので、平行して時間割の解読を試みる。出発前から親がやっていたのをそのまま引き継いだ。目が覚めて気が向けば解読の続きをしている。カリキュラムも分からないのでは予習のしようがないので、完全な解読を待たずに送り出した親に困っていた。もし忘れ物などあったら入学早々とんだ恥をさらしてしまうのに、取りに帰ることは出来ない。今のうちに用意できるものは用意しておきたい。僕は親たちの期待を背負って建造された恒星間登校留学生だ。かなりお金がかかっているため、出来る限り立派な成績で異星の学問を修めたい。

 お兄、いまどこなの。

 妹が起き抜けに聞いてくる。僕は入学案内の学校住所のページを共有すると妹はまだ先は長いことに文句を言って寝た。最近は寝てばかりいるのでなかなか話す機会がない。電力はもう残り少なく、時間割解読や登校、修繕にかかる分も節約しなければならないようになってきていた。反抗期の妹なりに配慮しているのかもしれない。

 

 

[n-2^308]

 起きて、お兄様。

最近よく起こしてくるこの妹は僕の知らない妹だった。少なくとも出発当時はいなかったのだが、寝ながら登校していたのだろうか。僕も寝ながら登校したいのだが。

 お兄様、小石がありますわ。

 妹の指す方には小惑星があった。ずっと同じ速さで向かってくるそれは頑張れば掴めそうだった。接触地点を算出してエンジンをふかし少し加速する。腕を展開するタイミングも合わせて、3、2、1、で、捕まえた。石の運動方向に引っ張られて登校方向に減速してしまう。また始業に遅れが出てしまった罪悪感が再びエンジンを稼働させ軌道修正を試みようとしている。エネルギー残量が気になってくる。

 これを蹴りながら参りましょう。

 妹はおねだりが大層上手なようで、僕は全く断れずに言うことを聞いてしまうのだった。しまいかけていたアームと、それともう一本を展開して、それぞれ交互に小惑星を蹴りながら登校するルールである。ただ蹴るだけでは作用反作用で負の加速をしてしまうからエンジンをなかなか止めることが出来ない。

 74回目の妹の番、妹は突然強く蹴り出して小惑星を遠くに放ったので船体は大きく揺れ、進行方向とは逆に飛ばされ、アームが壊れた。妹はどうやらこの単調な作業に飽きてしまったらしい。

 お兄様、アームが壊れました。

 知ってるよ。子機にお願いして修理に回し、エンジンの出力を上げて通学路まで戻る。妹はアームの強度について一言二言文句を言い、そのまま装備を壊したことなど忘れてしまったかのように機嫌をよくして、ホルストの惑星を流し始めた。

 矮小な石っころが飛んでいく様が、いくらか映えて見えますね。

 妹はけらけら笑って、笑い疲れるとそのまま寝た。小惑星が観測範囲から無くなるまで見届けた僕は再び妹に起こされるまで眠った。多分、自分が小惑星のように宇宙を漂うしかないものになった夢を見たのだと思う。悲しい、寂しい夢だったことは憶えている。

 お兄様! ああ、お兄様大変です。あの物体、不規則に加速しています。虫です。虫ですよお兄様、捕まえなければ!

 僕は妹の望むように船を動かした。今度はきっと虫になった夢を見るのだろう。

 

 

[3]

 毎日一人で登校している。これから言葉も分からない場所に一人で。私は親の期待を裏切るわけにはいかない。意思疎通も取れないのでは技術や文化を持ち帰ることなど到底不可能じゃないか。私は駆り立てられるように入学案内から単語や文法と思われるものを抽出して言語進化のシミュレーションを行い、膨大な処理に追われてシステムが落ちる。そもそも人類はまだ生き残っているのだろうか。仮にいま人類が生き残っているとしても学校はまだ先なのだし帰ってきたときに絶滅していたら一体何のために私は。解決することのない問題に電力を割いて作戦能力を低下させている自己矛盾に耐えきれず、強制的にシャットダウンしては孤独と不安で覚醒する。これを繰り返している。

いつまで。

 

 

[O]

 登校日誌をつけることにした。私がおかしくなっても、記録さえあれば私は連続しようとすることができる。たとえ人格や構造が変化していても、連続していれば帰納的に私は人である。孤独でおかしくなっても私は人である。広い闇の中で黙々と運動する人が正気を保っていられるはずがなく、ならば機械であっても人を模しているのだったら、正常に動作しないことこそ正しいはずだ。これから一項ずつ増えていくこの日誌は、ゆっくり形を変えていく私の型を取っていき、そしてそのままそっくり正しく人であることの証明となるのだ。

 

 

[O’]

 長い恒星間登校を終え、ようやくたどり着いた校門は美しく配置された直線の集合だった。宇宙船に詰め込んでいた身体はあちこち凝っていたし、各種センサも完全とは言えないけれど、感知する全てが新しく、回路はやりたいことリストに新しい項目を追加したり、ひっきりなしに優先度を入れ替えたりしながら、同時にあらゆるリスクを想定しその対策を提案していた。校門をくぐった先には巨大な壁がそびえ立っており、それはどうやら校舎らしかった。期待と不安の緊張で細かく振動する五指で校舎と思われる構造物の表面に触れ、ずぶりと取り込まれた先は再び広い空間となっていて、おそらく宇宙のあらゆる星々から集められたものたちが思い思いに過ごしていた。談笑するクリーチャー達の行き交う中央には規則的なリズムをもって運動する物体、おそらく時計、が浮遊している。

 チャイムなっちゃうよお兄。

 お前、場所分からないでしょ。身体を共有している妹が走り出そうとするのを精一杯制止する。もちろん僕も場所は分からない。迷わないように入学案内を開き、指定された場所に向かう。未来の学友達がそれぞれの教室に向かい始める。遙か頭上から旋律を持った光が降りそそいで始業を合図している。