ちゃぶ台

えんぞうです。書いた小説など

小説

フェイズトランスホームカミング

液化した体組織をたぷたぷに吸って重たくなった服を運んでいるから汗も出るし身体も溶ける。体重を支えるのに必要な筋繊維は分刻みで失われていくのに重さは変わらない。身体を包んでいる殻のような服の固い壁に、液化した自分の身体を転がしてぶつけ、倒れ…

声の化石

「子どもの頃はずっと化石堀りをしていた記憶しかない。遊んでいたわけではなく日々の暖を取るためで、父も母も化石を掘っていた。化石以外のものは父母の親の親の親のそのまた親の頃全て燃やされてしまったので、この星にはもう化石しか残されていなかった…

何もかもがギリギリすぎる

何もかもがギリギリすぎる。先延ばしにできることは先延ばしにするという厄介な性格のせい。おれは悪くない。 小さな小説コンテストの話です。 締切日は六月六日の二十三時五十九分。今日は先輩に(というか一人は歳は一緒だし誕生日で言えばおれの方が古い…

蓮池の下

その日は予報では雨といっていたから、昼ご飯に雨食を食べることにした。すると外はどしゃぶりで、好みじゃないけどそういえばしばらく食べていないな、とざると菜箸、ボウルを持って縁側に出る。柱を片手でしっかりと掴んで身を乗り出し、ボウルとざるを重…

登校日誌

[n] 光学系に大きな刺激があって目が覚めたが、観測できる範囲に天体はなかった。なんだったんだろう、とにかく変な波形だ。メロディのような。妹を起こそうと試みるも寝言で返事すらしてくれない。諦めて体内時計を確認すると、母星を発ってからもうかな…

うみなおし

今はもうすっかり小さくなってしまった海の、赤い汀線に跪く男がいる。男のひどく肥大した腹は浜に接して潰れていて、海水が通る度に浜に流れの模様を残す。粘度の高い赤い塩水が腹と浜に揉まれて泡立ち、膨れた腹の皮膚に張り付いていた。腹は今も少しずつ…