8月26日
萌ちゃん(涼花萌)が神木みかみに扮するどころの話ではなく、もはやその身に降ろす、いや降ろすというと両者の間に上下のニュアンスが生まれてしまう。宿す。成る。そういった、存在のより根本からそのものに近づくようなものだったことは驚きだった。萌ちゃんは髪をピンク色に染めた姿で現れた。8月25日、萌ちゃんの卒コンまで一週間を切った日のことである。
秋元プロデュースのグループ所属のアイドルが髪を明るい色に染めることは難しい。それは日本の学校の雰囲気に倣っているからだと思うが、そういうイメージを用いて商売をしている以上、契約に近い性格をもった約束事のはずで、おそらく、校則を破ることよりも難しい。
少なくとも許可なく染められないはずで、だから萌ちゃんが「勝手に染めた」らしいことを知ってまた驚いた。許可が出ないと思ったのか、出なかったのか。どっちでもいいけど、これって「卒業前だからはっちゃけて髪を派手に染める」やつそのものだ。意図していないとしても、完璧に学校という雰囲気を、卒業を演出してみせる。
ピンク髪の難しさも非常に効果的だ。普通人間がやっていい髪色ではないのだが、その常識を越えて……これは萌ちゃんに対しての好感度が一定以上ないとそう思わないかもしれないが、俺はすでに正常な判断が下せる段階にない……ピンク髪がこんなに似合う人間がいたのだと知る。ここの驚きがシンプルであればあるほど、これがどれだけ奇跡的なことなのかということを思わずにはいられない。
まさに魔法という他ない……身体の一部、しかも触媒としての利用が多い髪を使って虚構の存在を召喚する……奇しくも名前は「神木みかみ」だ。神じゃなくて妖精だけど。妖精ならばこういうことも可能なんだろうな。もともと不思議な雰囲気を纏っていたひとだったが、こうやって実際に魔法が使われているところを目の当たりにしてしまったのでは。
夏が終わる。嵐が来ている。
8月27日
いや、ウィッグか~~~~~~~い!
『涼花萌のもえぴよWonderland♡』内で明らかに。昨日今日ずっと萌ちゃんが髪を染めたことを考えていたのに?
ありもしない物語が組みあがっていく……いえ、そういうことなんて日々しょっちゅう起きていますが、今回はとんでもなかった。なんとも貴重な時間でした。上の文章のアホらしさが素晴らしい。台風が来ていることにすら感動していました。妖精が人界から解放されるという日に、嵐はぴったりですから。
8月30日
だまされておしまい、というのも、僕も萌ちゃんも誤解されやしないだろうか、と思ったので続きを。どう頑張っても言い訳っぽくなるからウィッグだったことの話はもうしません。でも萌ちゃんに騙されるってすごく気持ちの良いことだから……。
嵐の話はしたけど、そういえば夏の終わりの話をしていなかった。
自分が夏生まれということもあったり、蒸し暑さに思考も身体も溶けそうになる感じが好きだったり、夏は特別な季節だ。
ところで、天城サリー、西條和、涼花萌は『気の抜けたサイダー』というユニットを組んでいて、その最初のユニットソングは『ソフトクリーム落としちゃった』という曲だった。
ソフトクリーム落としちゃった ちょっと僕の気が緩んだんだ
君が買って来てくれたのに 手渡される瞬間に キャッチしそこなって落下した
アスファルトの上 無残にも 潰れた真っ白な涙
ソフトクリームが落下する、溶けるという変化になぞらえて、人生の不可逆性が歌われている。そして天城、西條、涼花は、現在残っている初期メンバーの最後の3人でもある。メンバーの卒業を見送り続けながらも22/7に残り続けてくれた3人、その結成するユニットが、一番最初の曲で不可逆性を歌っていたこと。できるだけ時間を留めて、ゆるっとふわっと、アイドルをやってきたこと。特にこの3人には永遠を信じてしまっていたなぁと、そうでないことを知ってようやく気付く。
西條和の『時をかける少女』のカバーでは、ソフトクリームを落としてしまったことをきっかけに過去にタイムリープする。形を決定的に変えてしまうソフトクリーム。西條の誕生日(7/25)に公開されたという背景もあるだろうが、ソフトクリームが溶けてしまう、というのも夏っぽいイメージだ。
夏は幻とか夢とか、そういうものに満たされていて、しかも9月1日を前にそれらすべてがパッタリと急に消える。そういう夏休みのイメージに囚われるというのもなんかそれっぽい。
そんなわけで、萌ちゃんが8月31日を卒業する日に選んでくれたのは、僕がそれを受け入れるためにはかなり良い方に働いていると思う。妖精も、夏も、嵐も、そして嘘も。そういった今揃っている要素が並んでいって、物語として綺麗にパッケージされていくのを眺めている。
覚めたくないなぁ。
8月31日
ゆるふわユニットの4人目のメンバー、織原純佳役の椎名桜月は、あの3人の特別さを最も近くで見ていたメンバーだったはずだ。ゆるふわの内側にいながら、形が変わってしまう様を外から見るというのはきっとすごく大変なことで。あの日自分が一番共感したのは、君はMoonで見せた椎名の涙だったように思う。
バラエティ番組で見る椎名は器用な優等生という風で、よく他メンバーのボケを拾ってくれる。人をよく観察できているんだなぁと思うが、その観察に立脚する共感、冷たさの中のオタクっぽい熱は、織原/椎名の独特な雰囲気……これが岸田メルの透明感とメチャメチャ合ってて良いよね……に見ることができる。
萌ちゃんは最後の手紙で、椎名の「繊細さ」について触れていた。そういう人があのポジションにいて、ユニットの決定的な変化を見届けていたということ、そのタフさを今は信じたい。
萌ちゃんはありたい自分、見せたい自分で居続けてくれたアイドルだったが、そういうマイペースにやっていく強さを持っていた存在が椎名の先輩にいてくれたことの幸運は並のものではない。椎名桜月も、「焦らない焦らない一休み一休み」と織原純佳と一緒にマイペースに歩んでいってほしい。そうは言ってもられない職業だろうけど……
8月31日(追記)
ということで、涼花萌ちゃんの最後のライブでした。普通に感想も残しとこうかな。
act.2では、やっぱり『君はMoon』の話をしたくなりますね。ペアを組んでクルクル回る、惑星と衛星の運動を表現した振り付けは、シンプルながらとても詩的で綺麗な瞬間です。メンバー全員で踊っているところから、それぞれペアに分かれて2体間の重力の話になり、離れて、また全体へ…を繰り返す。今回の『君はMoon』の主役だった「サリ萌」は通常はない組み合わせで、この特別なサリ萌を実現するために天体の運行に干渉したことは、まさにサマーライブのキーワードである「魔法」そのものです。
はじめの椎名桜月の話でもちょっと話したのですが、クルクル回るとこの最初の組み合わせが萌ちゃんと椎名で、ここで椎名は堪えきれずに涙を流しちゃうんですよね。そして萌ちゃんから離れた椎名は、次の、そのまた次のペアを組むメンバーたちに励まされながら、君はMoonを踊りきります。萌ちゃんの重力から離れた椎名は、他のメンバーたちとの相互作用の中で安定していく。椎名ひとりを見ていてもグループ全体がお互いに及ぼし合うものについて想像できる、素晴らしいパフォーマンスでした。
いよいよ迎えた涼花萌ちゃんの卒コン、もえぴよ♡ぴよぴよWonderland♡のtea party♡は予告通り渾身の可愛さに満ちたライブで……まさしく、萌ちゃんが法を布く国というような雰囲気でした。歴代衣装のファッションショーは圧巻で、詳しい感想は注釈に投げますが*1、これを着て循環バスをやるというアイディア、あの輪になってグルグルまわるとこの絵の美しさですよね。アイドルにとって衣装、制服というのはあの頃が形になったもので、それが輪に連なって循環する……なんか今日ぐるぐる回るとこばかり褒めている気がするな。
それでも、この日のベストパフォーマンスは、天城、西條、涼花、椎名による『悲しみの半分』以外にはないでしょう。ゆるふわメンバーによる最後のパフォーマンス。フレーズひとつひとつが連なっていくたびに「気の抜けたサイダー」が完成していく美しさ、あるいは、完成してしまう寂しさを募らせながら終わりに向かっていく。天城がMCで「最高のユニットだった」と言っていましたが、これは全くその通りで、あの4人の最も美しい瞬間が集まってできていた、奇跡の時間だったと思います。
みかみんラップ、あれで最後なのか。本当に全然実感がありません。
実感として自分の身に萌ちゃんの卒業が訪れたとき、一体どうなってしまうんだろう。
*1:
椎名:2ndシングル 『シャンプーの匂いがした』
MVも合わさってナナニジ曲の中で一番百合な曲と(俺の中で)名高いシャンプー。かの海乃氏もオタク解釈記事を公式ブログに載っけていたほどで、そんなシングルの衣装はやっぱりオタクが着ないとな!っていう思いが自分にあったらしい。それに気づかせたのは他でもない、シャンプー衣装に袖を通した椎名です。雰囲気的にもすこしお堅めの衣装が似合いますよね(それでいてふざけるのがね!)。
相川:3rdシングル 『理解者』
これはマジで天才だな、と思った組み合わせでした。一番「少女」感の強い衣装だと個人的に思ってますが、相川の天真爛漫さに本当に良く馴染んでいて。髪も短くしたのも、これに合わせるためなのでしょうか…愛らしさをさらに強くしていたので神でした。ありがとうございました。
月城:4thシングル 『何もしてあげられない』
これはね~、似合う、という大前提はさておき、はしゃぐ月城がめちゃめちゃ可愛かったんですよね。たぶん、いまナナニジで一番かわいいのって月城なんですよ。アフター配信の「ばか」を言い慣れてない月城とか。いま関係ないか。メンカラがどうこうじゃなくて、赤が似合うんですよ。しかも濃い赤。この赤とシンプルなシルエットがしっかりとした存在感を与えてます。半袖なのもいいですよね。肘と膝が見えるというところにある小年ぽさ。カッコいいが即ちカワイイでもあるから、100:100で両立してしまう。
河瀬:5thシングル 『ムズイ』
アニメ化直前にグループから離れた花川に代わって入ってくれた河瀬詩。レッスン期間もほとんどないままにアニメでニコルを演じ、そして今は先輩として立ち続けている彼女は、萌ちゃんの手紙でも読まれたように、ナナニジの「救世主」です。アニメのオープニングを飾ったシングルの衣装を河瀬に当てたのは、そういうメッセージも込めてのことかもしれません。色味やフリルなど可愛らしい要素が多い衣装ですが、その分アシンメトリーなデザインの不安定な印象が強く出ます。それに袖を通すしっかり者河瀬のお姉さんぽい魅力を見せてくれた萌ちゃんに、そしてあの頃からさらに頼もしくなった河瀬に、大感謝!
望月:6thシングル 『風は吹いてるか?』
六番町学院の制服としてデザインされたこの衣装は正直「固い」「重たい」という印象がありましたが、そんな印象も望月エナジー由来の熱があれば融けてしまう。重たさが身近さに変わったというか。チアフルなあの子が隣にいる、みたいな。グッとくる可愛さがありますよね。
四条:7thシングル 『僕が持っているものなら』
完成度の高さに驚かされました。四条のビジュアルを活かすとなると、旅人算衣装や後でわかること衣装など、歌劇の役っぽい装飾がカッコいいものを選びたいところですが、後輩加入前の衣装となると……7th衣装のどことなくアニメチックな仕上がりと四条の濃さとで、ちょっとラノベアニメっぽくなるんですね。完全に盲点でした。直線で構成されたデザインがクールな雰囲気と馴染むんですが、シンプルなので重たくならない。
涼花:1stアルバム『11という名の永遠の素数』
体調不良でツアーを休んでいた背景を知っているとグッとくるチョイスですが、素数衣装は生地の色合いとかの品がすごく良くて、形もまた働く女性、音楽の先生とか、そういうピシッとした仕上がりになっているから、萌ちゃんの雰囲気にしっかりした感じが足されてなんかドキドキしてしまいますね。「う~ん、今日の音はあんまりワクワクせんなぁ。ちょっとお外に出てお歌でも歌おうか?」みたいな。いや全然萌ちゃんが勝ってしまってメルヘンになっちゃったな。
麻丘:8thシングル 『覚醒』
シックな色合いと胸元の大きなリボンが特徴の覚醒衣装は、麻丘のほにゃら〜っとした雰囲気をそのままに、ビシッとしたシルエットで包んでくれて、まさにアイドル剣士然とした装いでした。この格好で剣持って殺陣、やって欲しいな…!
西條:2ndシングル 『旅人算』
西條のダンスの良さは、不純物の少なさにあると思っていて、ポーズもですが無駄がなく綺麗なんですよね。旅人算の衣装はお姫様のドレスかというくらいひらひらしてるんですが、西條のその綺麗な動きが作る布の軌跡が本当に理想的です。あと西條も西條でかなり非現実的な雰囲気の存在なので相性がいい。
天城:12thシングル 『後でわかること』
本人もかなり気に入っている衣装らしく、これを着て出てきた時は「やっぱりな」と思いました。衣装のダークな雰囲気と、天城のウキウキした様子と混じって立ち上る「天城サリー」というキャラの愛おしさがあります。天城の可愛さとしてここを持ってくるというのが本当にサリ萌で…萌えですよ。
あとこれの真骨頂がサリなごで、お姫様と魔女というビジュアル的にすごい美味しい瞬間が「YesとNoの間に」で来たのがハッピーでした。このペアの、お互いがお互いの色に絶対に染まらないという個性の対立、それでもこれまでずっと共に歩んできたことで作られてきた距離感って稀有だなあと。その間を媒介していたのが萌ちゃんでもあるのですが……萌ちゃん……