ちゃぶ台

えんぞうです。書いた小説など

とくに何かを悟ることなく終わったはずなのに

当時ポケ虹を観た人がTV版と全然違うっていって非常に困惑していたらしい。本当にそうだね。

ポケ虹は、TV版の世界を観てしまった並行世界の偽ホランドたちが「あれこそが正史」「私たちが生きるべき世界」として移住を目指し、対してレントンエウレカ達は自分たちの世界を神話を作るべきと反抗するという話で、TV版の映像を再編集したり、新しく声を入れたりという手法で「神話の再現」を表現していたりします。総集編なのかなと観に行ってみれば、同じ映像同じキャラなのに別のお話が展開されているとなると「なんじゃこれ」となるのも仕方ない気がしますね。

ここで私が面白いと思ったのは、この2つの作品に「正史と、そこから分岐した世界と」という力関係が存在していないことです。1246秒を50話使って作り上げてきたものと、そこから素材引っ張ってきて編集して一部を作ったものとが、です。こういうことを、交響詩篇エウレカセブンはずっと続けてきたのだと思います。

そんなことを許してしまうから、ANEMONEでスカブコーラルが氾濫し、生存圏を追われた人類は少女の魂を死地に送り、彼女にゴミ処理をさせることになるのです。

 

でもそれでいい。その優しさがいいんです。終わるに値する世界など存在しないのだから……。

 

そんな優しさの詰まった快作『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』の感想です。例によってガンガンネタバレしていきます。よろしくお願いします。

eurekaseven.jp

 

正直、めちゃくちゃいい映画というわけではなかったと思います。

作画は万全とはいえず、ハイクオリティなシーンは要所要所ではあるものの中盤から終盤にかけて崩れているところが目立ちました。ラブレスの合体シークエンスはいいとして、ラスト重要なシーンであるはずの特攻も笑う他なく、どのような気持ちで観ればよいのだろうと悩みます。音楽は? 私はもろもろ納得した2回目ですらあのEDでアガることができず(歌詞はなるほどな、という感じでしたが)、満足できないまま映画館から出る羽目になりました。

なにより私が一番観たかったANEMONEのその後の世界の話、受肉した虚構のその後については期待以上のものは出てきませんでした。

なにか世界の仕組みのような巨大なものを感じ取ること、悟りに似たような心の動き、がなかった……はずだったんですけどね。

youtu.be

帰ってTVアニメを実況していたら流れてくるEUREKAのCMを観るたびにゾワゾワ感じてしまう身体になっていました。なぜ? 俺は何を手に入れてしまったんだろう……。

 

虚構と現実が入り混じった後の世界

ANEMONEで一通り完結していたということは監督も話していて、それは自分がANEMONEのエンディングをみたときに感じた満足感の理由でもあるのですが、そうなると虚構と現実でガチャガチャする話はANEMONEですでに終わっていたのでは? という話になってきます。

だからこそ、EUREKAでは何を見せてくれるのだろうという期待がありました。

しかしもはや現実におりてきた虚構というのは現実でしかなく、現実世界と虚構世界の衝突もデモという私たちの現実に存在するものとしてしか発生していません。デューイたちの「被造物たる我々に意志というものは存在するのか?」という恐怖も、私たちの現実に存在しないわけでもない。

では虚構としてのEUREKAはどうやって成り立っているのかを考えてみると、それ自体がアニメであることによって成り立っているし、また作中で展開される他作品のパロディによって成り立っているのではないか、ということを思いました。

前者は洋画のような雰囲気を醸し出しつつ、かと思えば深夜アニメのような節操のなさでものすごくアニメチックな芝居に切り替えたり。後者は溶鉱炉に沈むデューイやラブレス合体、ラストのバカでかいハート(あれ何がどうなって解決したんですか?)などのウソみたいな景色によって。

でもまあ、そういうことって他のアニメもやってるんですよね。

 

ひたすらに”本物”を描くということ

虚構対現実の衝突を浴びたい……という期待を裏切られたのに、どうしてここまで刺さっているのだろうというのは少し疑問でした。

確かに画的に楽しいシーンはたくさんありました。特に冒頭、公開された15分程度の戦闘シーンをスクリーンで観たときには既に全身が泡立つほど興奮しており、「お前は予告を観るたびにその熱を思い出しているのだ」と言われれば、まあそういう部分もあるでしょうが、この映画で一番きもちよかったのはそこではない。あの現実と虚構の融和したときの気持ちよさは、一体どこからきたのだろう。

 

EUREKAが成した最も偉大なこと、それはエウレカというキャラクターの”本物”をガシガシ描き出してくれたことだと思います。

「機械人形にすぎない私たちが持っているこの気持ちは本物なのか」

雪月花のブローチが示唆する、EUREKA世界すらも虚構であるという可能性。そこに生きるエウレカも台本に従うほかない機械人形であり、そして事実、EUREKAという映画の登場人物です。ならば彼女がアイリスを大事に思う気持ちも、アネモネに言った「大好き」という言葉も、製作者の意図によって作られた嘘に過ぎなかったのか。

もちろん、そうではあり得なかった。エウレカという本物の人間の質感がスクリーンにはありました。

 

AOでは母としてのエウレカが登場しましたが、それとはまた違った年の取り方をしたエウレカが本作の主人公でした。

それが「酒を飲むか、筋トレしかしない、ガタイのいい兵士エウレカ」です。

世界をメチャクチャにしてしまったその贖罪に10年を費やし、身体にも心にも多くの傷を負ったエウレカ。非常にセクシーでしたね。アイリスとのロードムービーで見せる保護者のような姿も、母というよりは母ちゃんという感じで、地に足のついたものでした。

本作の洋画でバリバリアクションをこなすヒロインのような彼女は、今までになかったエウレカ像ではあったものの、その根っこにはしっかりと”エウレカ”という少女が存在していました。

風呂でのアイリスとの会話、アイリスが連れ去られた時の叫び、「アネモネちゃん」の呼び方、そしてレントンを求めたあの瞬間、スクリーン上で本物の感情を持った本物の人間としてのエウレカを通って、過去のエウレカシリーズにいた彼女を思い出す。

つまり、アニメキャラとしてのエウレカをひたすらに”本物”として描写したことで、私たちの感じる現実を通して、虚構を実感させることができたのではないか。

そしてこの実感こそが、自分を刺激する何かなのではないのだろうか。

という結論に、3回観た後でようやく落ち着きました。4,000円分の価値はあった。

 

名塚佳織さんが偉大過ぎる

エウレカシリーズとずっと向き合ってきた京田監督のエウレカ像、素晴らしかったです。「酒を飲むか、筋トレしかしない、ガタイのいい兵士エウレカ」を描けるのは、そしてそれをエウレカとして成立させることができるのは京田監督を置いて他にいないでしょう。アニメは脚本が命ですよ。

アイリス、アネモネなど、エウレカと大きくかかわるキャラクターたちの造形も非常に良かった。前作で世界の破壊者「魔女エウレカ」を許し、現実世界にまで引っ張ってきたアネモネちゃんが激ヤバ感情をぶちまけてくれたあのシーンは勿論、序盤のミーティングにエウレカを呼びに行くところの仲のいい同僚ですよ~みたいな雰囲気が凄い良かった。アイリスは次世代のエウレカとして「少女の始まり。」を担う大役でしたが、こちらもまた見事に演じ切ってくれましたね。愛を受け育ったものの、「力があるから拾ってもらえた」というドライな見方もしている。しかしその力は人を傷つけてしまうかもしれないもので……という微妙な天秤の振れ方がビンビン伝わりましたし、それよりなによりあのエウレカの母ちゃん芝居を引き出してくれたことが本当にありがたい。ありがとうございます。アニメは魅力的なキャラなしでは成り立たない。

最後に、これが一番言いたかったことなんですが、エウレカをずっと演じ続けた名塚佳織さんが偉大過ぎました。

パラレルな世界、しかもそれぞれが独立して存在するような過去シリーズでもエウレカという少女の微妙な差を演じ分けてきた名塚さんですが、本作ではさらに難しいエウレカを演じていたと思います。というか、上に書いたやつのほとんど全部が名塚佳織さんなしでは成り立たなかっただろとすら思う。

年をとったエウレカの、ANEMONE以後の10年を思わせる声。唯一心を許していたアネモネちゃんとの距離感。保護者として、そしてエウレカの先輩としてのアイリスへの目線。そしてやっぱり、レントンに恋する女の子としてのエウレカ。これらすべてを”本物”として成立させていたのは、これはもう名塚佳織さんパワーですよ。すべてのアニメは名塚さんを起用すべき。

 

少女の終わり。少女の始まり。

この一言にすべてを込めた映画でした。ANEMONEでやりたいことをやりきった監督のケジメとして、エウレカという少女の終わりまで描き切ること。そして次世代のエウレカに託すということ。多少不格好でも、京田監督はまっすぐやり切ってくれたと思います。監督のそのフィクションに対する真摯さに感謝……。

結局満足するまでに3回かかってしまいましたし、今もまだ予告を観てはズクズクと疼く感じが残っていますが、なんとなくではありますが「始まり。」を得た、ような感触があります。

俺もエウレカなのかもしれん。めちゃめちゃハッピーなスカブつくって世界を平和にしたいと思います。

 

他、めっちゃ好きなシーンとか

・ラスト、破壊するために建造されたメチャヤバ巨大軌道エレベーター。タイトルが出るところで初めて映るけど、スケールがアホすぎてフォントの一部かと思ってしまった。直下の国は助からんだろう……。

・鋼鉄の魔女初お披露目。アクションがいいのは言わずもがな、飛行機内部にエウレカが侵入するときANEMONEのキービジュの構図になるとことエモ過ぎる。

ホランドの小物感。デューイもデューイだしあの兄弟はかなりウケる。

ウルスラグナでキリニャガ基地を脱出するところ。細かい姿勢制御とか、アツい。

・「動画ばかりみているとバカになるわよ!」

・「うるさいわね」「うるさいわね」×5のとこでほっこりせんやつおらん。

・「お願いウルスラグナ、私をアイリスのところにつれてって!」に答えるかのようにディスプレイに表示される『GO』の文字。正直ニルヴァーシュの覚醒より興奮した。

・ヤバい思想のテロリスト集団がLINEっぽいやつでフランクにやり取りしてるところ。